情動二要因論
心拍数の上昇、発汗、手足の震えなど、体に起こる変化(生理的変化)と、感情(情動)には深い関係があります。これには、周囲の状況も関わってくることがわかっています。アメリカの心理学者スタンレー・シャクター(1922~1997)は、これを「情動二要因論」と呼びました。
シャクターは実験で、興奮作用のあるアドレナリンを注射してその効果を全く伝えないグループと、興奮作用があることを伝えたうえでアドレナリン注射を打つグループに分けました。注射の後に別室で実験協力者である陽気な人、または不機嫌な人に話しかけられると、興奮作用について説明されていたグループは「注射の副作用」だと認識できたため、感情には変化が起きにくかったのに比べて、興奮作用の説明がされなかったグループの人たちは、血圧の上昇や発汗という生理的変化をその実験協力者がもたらすものだと考えて、楽しさや怒りを感じやすいという結果がでました。
このほかにも、生理的変化と感情(情動)の関係についての実験に、カナダの社会心理学者ドナルド・ダットンとアーサー・アロンの吊り橋の実験があります。「好意的に思う相手と一緒にいる=心拍数の上昇」と考えるのは普通ですが、「心拍数の上昇=自分はこの相手に魅力を感じる」と勘違いを起こすのではないかという実験です。高さ70メートルのつり橋の上で、ひとりで橋を渡ってきた男性に、女性がアンケートを行います。回答後に「結果が気になったらこの電話番号に連絡して」と女性が男性に電話番号を渡したところ、半数近くが電話をかけました。同じ実験を、安全で高さもないコンクリートの橋で行ったところ、ほとんどの男性が電話をかけませんでした。実際は恐怖のせいなのに「ドキドキしているのは一緒にいる異性が素敵だからだ」と恋に落ちやすいとされる現象は「吊り橋効果」としても広く知られています。
ところが同じような実験を行ったアメリカの心理学者グレゴリー・ホワイトらによれば、そのそもその相手に魅力を感じなければ、恋には落ちないということもわかりました。このランニングの実験では、男性が2分間ランニングをして心拍数が上がる状況を作り、運動の前と後で女性の映像を見て魅力度を数値化しました。ランニング後に魅力度が高くなる傾向がありましたが、反対に、化粧、髪型、服装などをわざと魅力を感じない外見にした女性に対しては、ランニング前に比べて魅力度が下がるという結果になりました。そもそも恋には落ちそうもない人が相手の場合には、心拍の変化をその相手以外によるものだと考えるからだといわれています。
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