事実ではない事後情報
アメリカでは、後にDNA鑑定によって冤罪が明らかになった300件の裁判のうちの4分の3が誤った目撃証言で有罪判決となっていたことが報告されています。これから分かるように、目撃証言がしばしば誤った結果を生むことがあるのです。
目撃証言が誤った方向に導かれる原因の一つとして、証言を引き出す際の質問の仕方が挙げられます。もし質問が不適切であれば、目撃者が持つ正確な記憶に基づく証言を得ることが難しくなります。このことを示した実験が、アメリカの心理学者エリザベス・ロフタス(1944年生まれ)によって行われました。ロフタスは、記憶がどのように後からの情報に影響されるかを調べる研究で広く知られています。
1978年に発表された実験では、参加者に「停止標識」のある交差点で車が交通事故を起こしたスライドを見せた後、あたかも「徐行標識」があったかのように質問を行いました。20分後、参加者に「見たスライドには停止標識が映っていたか、それとも徐行標識だったか」を選ばせたところ、多くの参加者が「徐行標識」を選びました。この実験から、見た内容と矛盾する情報を後から聞かされることで、記憶が変わり、正確な証言が得にくくなることが明らかになりました。
このように、後から提供された情報が記憶に影響を与え、記憶を変容させる現象は「事後情報効果」と呼ばれています。この事実は、目撃証言の信頼性に大きな影響を及ぼすため、法的な場面での証言を扱う際には慎重さが求められることを示しています。
■エリザベス・ロフタス(1944~)アメリカの認知心理学者で、記憶と目撃証言に関する第一人者。
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