これは、ドイツの心理学者ヘルマン・エビングハウス(1850~1909)が1908年に出版した「Abriss der psychologie (心理学要論)」の冒頭(ぼうとう)に記した言葉です。
古代ギリシャ時代
古代ギリシャにまでさかのぼると、心のしくみや心の概念について探求するのは、「哲学」の領域でした。古代ギリシャ前期の哲学は 「自然哲学」とよばれ、自然を観察して知を得ることをめざしましたが、紀元前5世紀から哲学の対象の中心が人間社会へと移っていきました。「万学の祖」とよばれるアリストテレスは、哲学や数学、政治学などを含む「学問分類」をつくりあげました。ですが、紀元後のキリスト教の普及とともに、ギリシャ哲学は力を失っていきました。
その後、アリストテレス哲学は、12世紀あたりにイスラム世界から逆輸入される形で、ヨーロッパの人々に広く受容されはじめました。キリスト教とのあつれきを生みながらも、哲学は復活を遂げます。14世紀には、哲学は神学と切り離されましたが、哲学と科学の区別は、この時まだありませんでした。
17世紀
17世紀フランスの哲学者ルネ・デカルト(1596~1637)は 「我思う、ゆえに我あり」という言葉とともに、「自意識」だけが唯一確かな存在であると説ていました。「あらゆるものは、実は存在しないのではないか」というデカルトの疑いは、意識の存在を前提とする哲学を生みだしました。
「近代科学の祖」 とよばれる哲学者フランシス・ベーコン(1561~1626)は、「実験」の重要性を説きました。私たちのさまざまな思いこみが観察結果をゆがめ、まちがった結論をみちびいてしまう可能性があるため、自然現象を観察するには、「思いこみ (イドラ)」を捨て去るべきだと主張したのです。新たな知識は、注意深く実験を行い、その実験を重ねることで、獲得できると考えました。今日の科学の基本とされている「実験」の意義は、16世紀から17世紀にかけて確立されたものなのです。
18・19世紀
心理学誕生のきっかけとなったのは、人間の感覚という主観的なものを、実験を通じて数値化したエルンスト・ヴェーバー(1795~1878)による「精神物理学」です。ヴェーバーは、ドイツのライプツィヒ大学の解剖学教授で、感覚に関する研究を行っていました。ヴェーバーの研究は、同じくライプツィヒ大学の物理学教授グスタフ・フェヒナー(1801〜1887)によって発展しました。ここから、ウェーバー・フェヒナーの法則が生まれたのです。
この法則は、刺激(例えば手のひらに乗せるおもりの重さ)に対する感覚の変化を調べるものでした。
基準が100グラムの時は、2グラム増えると変化に気づきます。
基準が200グラムの時は、2グラムではなく、4グラム増えたときに変化に気づきます。
この実験から、変化に気づくのに必要な刺激の最小量は、基準となる刺激の大きさに比例することが明らかになり、刺激と感覚の対応関係を数式で表す法則が導き出されました。
このように実験によって感覚を数値化するヴェーバーとフェヒナーの研究は「精神物理学」と呼ばれました。
このフェヒナーの研究に影響されたのが、同じくライブツィヒ大学の哲学教授で「実験心理学」の父と呼ばれる、ヴィルヘルム・ヴント(1832〜1920)です。彼は、実験を使えば、意識や感情も科学的に研究できると考えました。刺激などを適切にコントロールするために実験室が必要となり、ヴントは1879年に「心理学実験室」を開設ました。これが、近代的な心理学の誕生とされています。
ヴントの研究は「構成主義」と呼ばれます。原子が結びついて物質となるのと同じように、意識などの心の働きにも、多くの要素が結びついて構成されていると考え、そのような要素を明らかにすることを目標とします。
ヴントは「感情の三次元説」を唱え、感情が「快と不快」「興奮と鎮静」「緊張と弛緩」の3次元からなると考え、意識や感情といった心のはたらきも、実験を使えば数値化でき、科学的に研究できるようになると考えました。そして、1879年、ライプツィヒ大学に刺激などを適切にコントロールするための世界ではじめての「心理学実験室」を開設しました。これが近代的な心理学の誕生とされています。
20世紀
20世紀に入って、アメリカで「行動主義」が生まれました。ヴントのように意識や主観を研究するのではなく、客観的に観察できる「行動」が研究対象です。
ドイツでは、「ゲシュタルト心理学」が発展しました。刺激と反応が1:1の関係にあるのではなく、人の反応は、周囲の環境全体によって決まると考えるのがゲシュタルト心理学です。ゲシュタルト心理学は、のちに「社会心理学」へと発展します。
また、1940年代には、当時登場したコンピューターの動きに人の心をなぞらえ、刺激を受けたときに人の内部でおこっている過程に焦点を当てる「認知心理学」が発達しました。
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