錯視
錯視は、視覚による錯覚のことです。私たちは、目で認識しているものが「現実」であると思いがちですが、実際に認識しているのは、視覚情報を私たちの心が都合よく解釈したものに過ぎません。何が見えているのかは、心の在り方、つまり何に注目するか、どう注意するかがその解釈に大きく影響をあたえているのです。
錯視の図には有名なものがいくつかあります。
平衡にならぶ水平の2本の直線の長さが同じであるのに、それぞれ両端にYと矢印があることでYのほうが長く見えてしまうのが、「ミュラー・リヤー錯視」です。
「ミュンスターベルク錯視」は、平行線の両側に等間隔に白と黒の正方形を上下互い違いに配置した図で、正方形の間にある直線が歪んでいるように見えます。「カフェウォール錯視」はその直線部分を灰色にしたもので、よりゆがみが強く見える錯視です。
ゲシュタルト心理学では、情報というのは、個々でとらえるのではなく、一つのまとまりとして全体をとらえる(ゲシュタルト法則、またはゲシュタルト要因)とされています。ミュラーリヤー錯視の図も、カフェウォール錯視の図も、水平の直線の周囲にある情報によって、実際には同じ長さの線であるのに違いがあるように見えたり、線が歪んで見えたりするのです。
白黒まだら模様の画像の中に「あるもの」が隠れているという画像は、初めて見るときにはただのまだら模様にしか見えないけれど、一度その模様に意味があって「あるもの」の影として配置されていることに気が付くと、「あるもの」が浮き出て見えるため、ただの不規則な模様には見えず、いつでも「あるもの」のある画像になります。「あるもの」の存在に気が付く前と後とでは、画像への注意の向け方が違うからです。
私たちの心は、何も知らない状態の場合は、「ボトムアップ型」の情報処理、つまり視界に入ってきたさまざまな情報を積み上げていってそこに何があるかを判断するという処理を行っています。一方で、「あるもの」を認識した後では、「『あるもの』があるはず」という事前に分かっている情報を活かして、画像の中から「あるもの」の要素を探し出すという「トップダウン型」の情報処理が行われます。人間の「知覚」は、一般的にはボトムアップ型だと考えられています。
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