愛着理論
愛着理論は、イギリスの精神科医ジョン・ボウルビィ(1907~1990)が提唱したものです。「愛着(アタッチメント)」は、「特定の対象との情緒的な結びつき」のことで、主に乳幼児が母親(養育者)と築くきずなを指します。
空腹や不快感という生理的欲求をもとにして、愛情という二次的な結びつきが生まれるのではなく、そもそも愛着が生物の生き残りに必要な、もともと組み込まれた機能だと考えました。そのきっかけは、オーストリアの動物行動学者コンラート・ローレンツ(1903~1989)の発見した「刷り込み(インプリンティング)」がきっかけでした。カモなどの鳥が、ふ化した後の一定期間に人や物体を見分けて追尾すると、一生それを追尾するという機能から発想を得たものです。この、期間限定で一度きりの、訂正もできない「刷り込み」により、ひなが追尾する対象が、空腹などの生理的欲求を満たしてくれる母鳥に限られないということに注目したのです。
ストレスがある状況下において乳児が示す行動を「愛着行動」といいます。愛着行動は、愛着した対象に近接した状態を維持しようとして、接触を求めるという本能的行動です。
(1)発信行動:泣く、笑う、発声するなど、愛着した対象に対して自分の欲求を伝えるための行動です。
(2)定位行動:後追い、注視など、愛着した対象を求める自発的な行動です。
(3)能動的身体行動(接近行動):よじ登り、抱き着きなど、定位行動よりもさらに密着することを求める自発的な行動です。
これらの愛着行動は発達に伴って変化していきます。生後すぐは、親を特定せずに近くにいる相手に対して発信行動や定位行動を行いますが、徐々に親を認識して、他人と区別して愛着行動を分けて行います。生後半年から3歳頃までは自分から密着してその相手を安全基地のようにとらえ、分離不安を見せますが、3歳以降はアタッチメントがなくても愛情を感じることができるようになるのです。
愛着理論アメリカの心理学者ハリー・F・ハーロウ(1905~1981)は、アカゲザルの子供の代理母実験を行いました。哺乳瓶をつけた針金製の模型代理母と、柔らかな布を巻いた代理母の二体を準備し、母ざるから引き離した子ザルに与えたのです。「針金の母親」を与えられた子ザルは哺乳瓶のミルクは飲むものの、それ以上の接触はありませんでした。一方、「布の母親」をあたえられた子ザルは、温もりや肌触りなどの身体的な接触を求め、模型にしがみつくという行動をとったのです。代理母実験ののちに成長したアカゲザルのメスはその後自分が子ザルを生んだ際に育児放棄することが多かったそうです。これにより、愛着の形成に肌が触れあうということが大きな影響を及ぼすということと、母親から子に対する愛着行動が養育や情緒安定に必要であるということが示されました。
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