記憶には、短期記憶と長期記憶があります。短期記憶が持続する時間は、数十秒程度ですが、短期記憶は頭の中で復唱されるなど、「リハーサル」を繰り返すことで長期記憶となり、簡単には失われない、非常に安定した記憶として保存されます。
忘却曲線
ヘルマン・エビングハウス(1850~1909)はドイツの心理学者です。記憶に関する研究の先駆者で、忘却曲線を発見しました。エビングハウスの死後は行動主義が主流となったので、記憶の研究は停滞しました。それから再び記憶の研究に注目が集まったのは、20世紀後半、認知心理学が発展してからでした。忘却曲線は、記憶しようと試みた情報のうち、どのくらいのものをいつまで思い出すことが可能かという、記憶を忘れる速さに関する結果の実験です。記憶直後の記憶率はほぼ100%ですがが、1時間後には約50%以下まで下がって、6日後には25%まで低下します。その後は、一か月程度まで20%程度を保つということが分かりました。
記憶の多重貯蔵モデル
アメリカの心理学者リチャード・アトキンソン(1929~)とリチャード・シフリン(1942~)による研究によると、記憶は、感覚記憶、短期記憶、長期記憶の3つに分かれるという「多重貯蔵モデル」になっていると考えられています。感覚器官から得た刺激は、大脳辺縁系の旧内皮質に集められてから、海馬へと送られます。感覚刺激は、感覚記憶として一瞬だけ記憶されますが、この保持期間はたったの0.5秒ほどです。この中から、意識的にとどめておこうとした情報を海馬へ送り、「短期記憶」として保存しています。
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短期記憶:数十秒以内の記憶
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長期記憶:長い場合は一生
短期記憶の容量は限られている
アメリカの心理学者であるジョージ・ミラー(1920~2012)は短期記憶の容量について、「マジカルナンバー」を発見しました。短期記憶の容量はそれほど多くなく、人によって差はありますが、例えばランダムな数字を一度聞いて、直後に再生するような場合であれば7±2個程度が限界とされています。数、または文字情報であればその文字数で7文字が、意味の理解できる単語であれば7つの言葉が、情報のまとまりとなります。
例えば、元素記号を暗記するときに、順番に暗記していこうとするとHが水素、Heがヘリウム、Liがリチウム、と7個から8個程度の元素記号しか一時的に記憶できないことになりますが、「水兵リーベ僕の船 名前がある シップス クラークか」と語呂合わせでまとめてしまうと、20個の元素記号を覚えることができてしまうのです。あとは、これを繰り返し覚えて定着させ、長期記憶になれば忘れない、という仕組みです。
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