「記憶は常に正確なものである」という考えは誤った認識で、「必ずしも事実を間違いなく記憶しているわけではない」のは確実です。アメリカ、ハーバード大学の心理学者ダニエル・シャクター(1952~)によれば、記憶のエラーには7種類あるといいます。物忘れ、不注意、妨害、混乱、暗示、書き換え、つきまといの7つです。

物忘れ

古い記憶があいまいになるなど、時間の経過に伴う記憶の喪失、弱体化、欠陥などです。古い情報が新たな情報を思い出すの能力に干渉していて抑制される場合と、新しい情報が古い情報を思い出す能力に干渉していて抑制される場合があります。

不注意

問題や心配事に集中することが原因で生じる、注意と記憶のつなぎ目で起こる記憶の誤動作です。鍵をなくす、大事な予定を忘れてしまうなど、記憶のコーディングの際に後から思い出す必要があることに十分注意を払わなかったため、何かに気が散り、覚えておかなければならないことを忘れてしまったというものです。

妨害

知っているはずの記憶について、どうにか思い出そうとしている情報の検索が、ほかの記憶の介入、妨害により、うまくいかないというエラーです。時間が経って予期せぬ時に、思い出せなかった記憶がふいに回復し、気が付くことがあります。

混乱

記憶の出所や、経験と創造などの区別がつかず、混乱したエラーです。似たようなものを以前に見ているにも関わらず、実際にはそれを新しいと思い込むと、混乱が生じます。

暗示

思い込みや暗示により、記憶が変容するエラーです。周りからの疑念、批評、重要な提案の結果として貯蔵された記憶を指します。

書き換え

現在の知識や信念により、過去にゆがみが生じて、記憶が書き換えられてしまうエラーです。過去の実際に起こった時点での記憶が、無意識のうちに現在どう感じるかに表現が書き換えられることがあります。

つきまとい

忘れたいのに忘れられない、望まない記憶にまつわるエラーです。トラウマなど、あまりに痛みを伴う記憶や、継続的なぶり返しにより不安になったりストレス障害に悩まされる記憶は、エラーを起こすことにより本人を守ることに繋がります。

記憶にエラーはつきもので、誤りやすいという特徴を知ったうえで、うまく付き合っていくことが大切です。日々感覚器官から脳へ入力される膨大な量の情報のうち、私たちが意識しているのはその一部だけで、そこから脳の海馬で記憶されるものはさらに一部だけです。すべての情報を記憶していないからこそ、頭がいっぱいにならない、ともいえるのです。

ダニエル・シャクター(1952~)アメリカの心理学者で、ハーバード大学の心理学教授。人間の記憶と記憶喪失の心理的・生物学的側面に焦点を当てており、特に意識的記憶と無意識的記憶の区別に注力している。

心理学

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