組織課題

働き方改革が進まない本当の理由とは

働き方改革が叫ばれて久しいが、現場での実感が乏しいという声はいまだ根強い。制度としては存在しているにもかかわらず、実態としては活用されず、業務量も変わらない。この「進まない改革」の根源には、制度や仕組みの整備だけでは解消できない、組織と人の間に潜む非認知的な壁が存在している。

まず「業務量が減らない」という問題である。多くの企業では業務棚卸を行い、無駄の可視化を試みているが、優先順位の再設定や業務の見直しは現場任せにされがちである。担当者の判断に依存し、根本的な設計変更には至らない。その背景には、「今のやり方を変えたくない」「引き継ぎが面倒」といった感情的な抵抗がある。また、アウトソーシングを検討しても、「外に出すと質が落ちる」「責任の所在が不明瞭になる」という「不安」が意思決定を鈍らせる。これらの不安要素を払拭するために、一時的だが労力をかけるということも避けて通ろうとしてしまいがちである。

次に「制度があるが活用されない」という課題がある。男性の育児休業や時短勤務制度などは整備されていても、実際に使うことに対する遠慮や、周囲への配慮が制度活用を妨げる。特に上司が制度利用者の事情や心理に無理解である場合、部下は「みんなに迷惑をかけてしまうのでは」と感じ、利用を控える。このような状態を打開するには、制度の周知だけでなく、利用者の声を組織的に吸い上げ、上司に対して感情面も含めた理解促進を行う必要がある。

「公平性への懸念」は、柔軟な働き方を進めるうえで避けて通れない課題である。在宅勤務や時短勤務が評価にどう反映されるのかが不明確であれば、結局フルタイムで働く社員に過剰な期待が寄せられ、制度利用者との間に溝が生まれる。その結果、「制度を使う人はずるい」という意識が組織内で共有される。これを解消するには、評価制度の見直しが不可欠である。働き方の違いにかかわらず、成果やプロセスを可視化し、公平かつ透明な評価基準を設定することが求められる。

また、「非正規との待遇差」も、働き方改革の信頼性を損なう大きな要因である。同じ業務を担っていても、雇用形態の違いによって賃金や待遇に差がある場合、組織への不信感が広がりやすい。これを是正するには、職務内容を正確に定義し、同一労働同一賃金の原則を徹底することが必要である。非正規社員が自らの職務に誇りと安心を持てるようにすることで、職場全体のモチベーションも向上する。

これらの問題の根源は、制度やマニュアルといった「形式的な枠組み」と、実際に制度を運用する「人」の間にある感情的な乖離である。いかに制度を整えても、使う側の不安、上司の無理解、周囲の嫉妬、変化への恐れといった感情を放置していては、改革は進まない。

したがって、本質的な働き方改革を実現するためには、管理者が制度やルールの運用に注力するだけでは不十分である。従業員がその制度をどのように受け止め、何を考え、何を感じているのか。不安や苛立ち、あきらめ、喜びといった感情の実態を正しく把握することが不可欠である。さらに、個人の感情だけでなく、職場という集団の中で生まれる「雰囲気」という感情的空気にも敏感に対応し、最適な関わりを模索する必要がある。

もちろん、従業員側にも責任がある。自身の働き方が自分や同僚、チーム、組織全体にとって最善であるかを考え、不安に向き合いながら挑戦する姿勢や、自らの受け止め方に偏りがないかを自己点検し、必要に応じて他者に相談する姿勢が求められる。

働き方改革とは、企業から一方的に押し付けられるものでも、従業員が権利として一方的に行使するものでもない。職場に集う人々が、共により良い環境を築くことを目的とした、双方向的な取り組みである。

共感と対話を通じて相互理解を深め、誰もが安心して制度を活用できる組織風土を育むこと。それこそが、制度の形骸化を防ぎ、働き方改革を実効あるものとして機能させる唯一の道である。

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