日本企業において、次世代リーダーの育成が喫緊の課題とされて久しい。定年延長や少子高齢化によって人材の流動性が下がる一方で、現場からは「若手が育たない」「幹部候補が見当たらない」といった声が多く聞かれる。だが、それは本当に「若手が育っていない」のだろうか。それとも、「育てられる場」が存在していないのだろうか。
リーダーシップとは一朝一夕に獲得できるものではない。経験と信頼の積み重ねの中で、少しずつ形を成していくものである。しかし多くの職場では、挑戦の機会そのものが与えられていない。「ミスが許されない」「空気を読んで控えめであるべき」といった職場の暗黙のルールが、若手にリーダー的な振る舞いを封じているのである。
リーダーシップの芽は、すでに職場の中に存在している。だがその芽を伸ばすためには、「安心して力を発揮できる環境」と「失敗から学ぶ土壌」が欠かせない。感情知能(EQ)の研究においても、自己理解・他者理解・共感・関係性構築といった力がリーダーの資質に直結することが示されている(Goleman, 1998)。言い換えれば、非認知能力を高めることが次世代リーダーの可能性を広げる鍵となる。
また、現代の若手がリーダーを目指さない理由として、「上司を見て憧れない」「自分が管理職になっても良い未来が見えない」といった声がある。これは制度や待遇以前に、ロールモデルの不在や職場の空気が影響していると考えるべきである。育成を語る前に、まず“誰がどのようにして育てるのか”という土台づくりが必要なのである。
次世代リーダーを育てるためには、上司や先輩自身が「育成すること」への責任と誇りを持つ必要がある。期待を伝え、機会を与え、挑戦を見守ること。そして、うまくいかなかったときも冷静に受け止め、一緒に振り返る姿勢が重要である。その繰り返しの中でしか、リーダーシップは育たない。
実際、Six Secondsによる国際的な研究においても、EQスコアが高い管理職は部下の自発性や挑戦意欲を引き出しやすい傾向があることが示されている。つまり、リーダーシップは教えるものではなく、環境の中で“引き出す”ものであり、その環境を整える力こそ、次のリーダーを育てる条件なのである。
結局のところ、「育たない若手」などいない。育つ場を作っていないだけである。制度や研修をいくら整えても、日々の関係性、感情のやり取り、信頼の構築がなければ、本当の育成にはつながらない。次世代を託せる人材を本気で育てたいのであれば、組織全体が「感情」を扱う力を高める必要がある。その基盤が整ってはじめて、リーダーシップという見えない力が育つのである。