組織課題

なぜ知識では防げない?職場でメンタル不調を防ぐには

従業員のメンタルヘルス不調は、知識やルールによる対策だけでは防ぐことが難しい。職場で重要なのは、ひとりひとりが抱えるプレッシャーへの耐性を共有し、心の状態について自然に語り合える関係性を育むことである。なぜなら、心の負荷は仕事内外で積もるものであり、プライベートと仕事の境界線は明確ではなく、互いに深く影響を及ぼし合うからだ。

プライベートでのストレスが強まれば、職場での精神的な余力は低下する。反対に、仕事の不安が家庭に持ち越されれば、社員の生活全体が不安定化する。そのため、組織は、従業員の人生全体にかかるプレッシャーを意識し、それを包括する文化を育む責任がある。家族が社員の悩みや成功に耳を傾ける存在であることを、企業側が理解し支えることも不可欠である。

その前提として、まず重要なのは、心理的安全性と呼ばれる関係性である。ノースウェスタン大学の研究にもあるように、失敗や弱音を恐れず話せる環境は、ストレスを初期段階で共有・和らげる場となる。こうした文化は制度ではなく、日々の感情のやりとりと相互理解が土台となる。

加えて、感情知能(Emotional Intelligence;EI)はメンタルヘルス予防において強力な保護因子である。オーストラリアの高齢者ケア現場を対象とした研究では、EIが高い職員ほど心理的自立感やウェルビーイングが高く、ストレス耐性が向上したことが示された。EIはプライベートの感情経験を含めた人生全体で育成され、その影響は仕事の自己調整力やストレス対処力にも及ぶと理論的にも支えられている。

さらに、オーストラリアやカナダを中心とした研究により、職場のPsychosocial Safety Climate(PSC)、つまり「職場全体の心理的安全へのコミットメント」は、抑うつやバーンアウト、不平等や嫌がらせの発生を抑えるバッファーとして機能することが複数の調査で確認されている。PSCが10%向上するだけで、抑うつが約4.5%減少し、バーンアウトも有意に低下するとされる。

心の健康を支える組織文化とは、単に社員間の人間関係にとどまらず、個々人の生活背景や感情に寄り添う視座をもつものである。たとえば、上司が「昨日は家庭のことで大変だったんだろう?」と自然に声をかける場面が、心理的安全性と感情共有を促す文化となりうる。また、制度的に心身の状態を問うチェックインや、家族へのサポートガイドラインを整備することも、プレッシャーへの耐性強化につながる。

結局のところ、知識やルールでは職場の心理的負担を完全には防げない。大切なのは、感情を共有し合える非認知能力を培った関係性を構築し、プライベートと仕事のプレッシャーを相互に包括する文化を育むことである。そうした組織では、制度に頼るだけでは見えない問題が自然と可視化され、早期対応が可能になる。感情知能を活かした自己認識と他者との良質な対話を通し、「職場全体の心理的安全へのコミットメント」による組織的な支援が揃ったとき、初めてメンタルヘルスを未然に防ぐ「心ある職場」が実現するのである。

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