組織課題

自己観察こそが、ヒューマンエラーを防ぐ最大の武器である

ヒューマンエラーは完全にゼロにすることが難しいものである。というのも、多くのミスは意図的ではなく、無意識の思考や習慣的な動作の中で発生するからだ。知識や手順の習得だけでは、こうした無意識に根ざした行動を変えることは困難である。

人間の思考は「意識的に熟考する遅い思考」と「反射的に処理する速い思考」の二重構造で成り立っている。とりわけ、熟練した専門職においては、経験に基づいた「速い思考」が優位となりがちである。これは効率的ではあるが、一方で細かなリスクやコンテキストの変化に気づきにくくなる傾向がある。この無意識による反応こそが、エラーの温床になるのである。

エラーを減らすために知識や手順を強化しても、人は不測の事態や環境変化に無防備である。「知っていても、やっていない」状態は、自己認識力の不足に由来する。自己認識力とは、自分の思考や感情、行動パターンに気づく力であり、これは非認知能力の中核を成す。たとえば、自分が焦っていると感じる瞬間を捉えられなければ、その先の慌てた判断がミスの引き金となる。

認識ができていれば、自らが速い思考に頼り過ぎていることに気づき、立ち止まって考え直すことが可能になる。認知神経科学の研究から、自己認識は感情制御や意思決定の質に深く関与していることが示されている※1。自己認識力の差は習慣的思考の質に影響し、これがヒューマンエラーの発生頻度の違いに直結する。

自己認識力が低いままでは、知識やマニュアルは形骸化し、エラー防止の仕組みを回避する行動が無意識化する。「私はいつも安全確認をする人だから」と盲信し、細かな変化を見逃す。自分の思考のクセや感情に気づけていない状態である。これを克服するには、自己観察や振り返り(リフレクション)を定期的に実践し、自分の行動パターンと感情反応に意識的になる訓練が有効である。

また、自己認識は単なる気づきで終わらず、行動変容に結びつく必要がある。ハーバード・ビジネス・レビュー(HBR)の報告によれば、自己認識が高い人はより客観的に自らを評価でき、創造的かつ判断力の高い決断ができる傾向が示されている※2。つまり、自己認識力の質が高いほどエラーを未然に察知し、修正できる能力が上がるのである。

さらに、「自己認識だけでは不十分」という重要な指摘もある。自己認識から得た気づきを実際の行動に反映せねば、変化は起こらない。たとえ自分の思考のクセや感情を把握しても、行動レベルで別の選択をしなければ、ミスを回避することはできない。したがって自己認識と自己制御を連携させる訓練が、ヒューマンエラー防止には不可欠である。

要するに、ヒューマンエラーの根底には「無意識の思考と習慣」があり、これを変えない限り消えない。知識やルールは必要だが、それだけでは防げない。自己認識力の差が日々の業務におけるエラー発生率を左右する根本的要因である。そこにメスを入れるには、リフレクションや感情・行動のモニタリングを習慣化し、自己得た気づきを行動に落とし込む文化が必要となる。

参考:
※1 https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC3062191/
※2 https://hbr.org/2018/01/what-self-awareness-really-is-and-how-to-cultivate-it

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