企業経営におけるダイバーシティ推進、とりわけ取締役会のジェンダー多様性は、近年多くの注目を集めてきた。とりわけ日本企業においては、女性の登用を企業価値向上の一手とする政策誘導やガバナンス改革が進められてきた。しかしながら、最新の研究成果として注目される「Board Gender Diversity and Firm Performance: Recent Evidence from Japan」(2024年)では、日本における女性役員の増加が企業業績の低下と関連していることが示されている。
この研究が示すのは、単純な因果関係ではない。女性役員の増加が、企業のCSR(企業の社会的責任)活動やイノベーション投資の拡大につながり、それが短期的な財務パフォーマンスを圧迫する構図があるというのだ。すなわち、業績悪化は女性の登用そのものではなく、経営資源の再配分を通じた副次的影響の結果であるという点が重要である。
だが、この因果の根底には、さらに深い背景がある。それは、日本特有の組織風土や意思決定の文化に起因する部分である。日本の企業文化には、未だに根強い性別役割分担意識や、集団の同質性を保とうとする傾向が存在する。こうした土壌の中で、形式的に多様性を取り入れても、実質的な議論の変化や意志決定構造の進化には結びつかないことが多い。
たとえば、女性役員の意見が軽視されたり、形骸的なポジションにとどまったりすれば、いかに優れた視点や価値観を持っていても、それが経営に生かされることはない。さらに、CSRやイノベーションといったテーマは、短期的な収益性には結びつきにくい側面がある。それらに経営資源を割くことが、保守的な企業風土の中で「非効率な支出」とみなされる場面もあるだろう。
この研究から得られる最大の示唆は、単に制度的に女性を登用すればよいという時代はすでに終わっているという点にある。経営戦略や制度設計の変革と並行して、組織風土そのものの再設計が不可欠である。意識変容を促す研修、無意識バイアスの可視化、意見表明のプロセスの公平性の確保など、文化的変革を伴わない限り、形式的なダイバーシティ導入は逆効果になりかねない。
つまり、問われているのは、企業が「多様性を導入する準備ができているかどうか」なのである。制度や登用数値の達成だけでは、本質的な変化は生まれない。多様性が活きる組織とは、異質な視点や価値観が経営の中核に位置づけられ、意思決定に反映される場である。そこには、役員の属性だけではなく、組織全体の文化と構造が深く関与している。
組織風土を変革するには時間がかかるが、それを後回しにしてはならない。むしろ、女性登用を進めるのであればこそ、それが活きる土壌づくりこそが、経営にとっての本質的な課題なのである。
参考
Board Gender Diversity and Firm Performance: Recent Evidence from Japan
超高齢社会とジェンダー~男女役割分業の限界~ニッセイ基礎研究所