日本における女性の管理職比率は、依然として国際的に低水準である。内閣府の男女共同参画白書によれば、2023年時点で課長相当職以上に占める女性の割合は15.5%にとどまり、政府が掲げる30%という目標には遠く及ばない。制度改革や目標設定といった取り組みは進んでいるものの、実態はなかなか変わらず、多くの企業がその困難さを訴えている。なぜこうも変化が乏しいのか。その本質は、制度や数値ではなく、人の感情にある。
昇進や登用の場において、「本人に意欲がない」「まだ早い」「家庭との両立が難しそう」といった言葉が理由として挙げられることがある。これらは一見すると合理的な判断のようであり、配慮ともとれるが、実際には無意識のバイアスが働いていることが多い。本人に確認する前に先回りして判断し、機会を奪っているのである。この「気遣い」が昇進の障壁となり、企業自身が登用の機会を狭めている。
女性本人が昇進の打診に即座に応じられないのも、能力の問題ではない。責任の重さ、周囲の視線、家庭との調整、職場内の過去の事例など、さまざまな感情的負荷が一度に押し寄せる。とりわけ、過去に管理職となった女性が孤立し、評価されずに去っていったような事例が共有されている職場では、「自分も同じ目に遭うのでは」という不安が強く働く。これは理屈ではなく感情の問題である。
企業側が「手が挙がらない」「候補がいない」と感じる背景には、心理的安全性の欠如がある。昇進に前向きになれるような安心感が職場に存在していなければ、制度や仕組みだけでは前進は見込めない。職場の雰囲気や人間関係、すなわち組織風土が感情を受け止める素地を持たない限り、制度は空回りし続ける。
日本労働政策研究・研修機構による調査では、女性が昇進を望まない理由の上位に「ワークライフバランスへの懸念」「職場からの支援の不足」「管理職のメリットが見えない」といった、主観的で感情的な要因が並んでいる。しかし、こうした感情に対して組織が誠実に対応し、ロールモデルや具体的な支援を提示している企業では、登用に前向きな姿勢が確実に増えている。
このような感情の壁を乗り越えるには、まず「感情を扱う」という視点を持つことが重要である。不安に対して「覚悟が足りない」と切り捨てるのではなく、「どこに不安を感じているのか」「どうすれば安心して挑戦できるのか」といった対話を重ねることが求められる。感情は放置すれば障壁となるが、丁寧に言語化し、共有されれば行動を生み出す原動力となる。
加えて、すでに活躍している女性管理職の存在を可視化し、そのプロセスを自然体で共有することも効果的である。「あの人にできるなら自分にもできるかもしれない」という心理的安全性が、挑戦への土壌を耕す。失敗や迷いも含めた等身大の姿が、「完璧でなくてよい」という許容を広げることにもつながる。
不安とは、れっきとした感情であり、放っておけば自然に消えるものではない。目の前の状況や未来への予測に対して抱く心の反応であり、それにどう対応するかによって、感情は強まりもすれば、和らぎもする。思考や行動、言葉が変わらない限り、不安の根は残り続ける。ゆえに、何に不安を抱いているのかを丁寧に見極め、その感情の背景を理解し、適切に対応する必要がある。この一連の行為が「感情の知性(Emotional Intelligence)」と呼ばれる力である。
もし、女性の登用が進まない組織において、制度だけを整えたのに変化がないとすれば、それは組織や構成員の感情能力に偏りがある可能性を示している。どのような場面で感情が動き、どこに過剰な反応や抑圧があるのか。それを一度も診断したことがないなら、まずは現状の可視化から始めるべきである。感情は見えないが、組織の意思決定や人間関係に深く影響を及ぼす。だからこそ、「感情を扱う力」の育成と共有が、制度だけでは届かない変化を実現する鍵となるのである。