組織課題

職場における共感と同情:その違いと共感力育成のポイント

「無神経」の人、上司で困っている人は長文になりますが、ぜひ一読を。

共感(エンパシー)と同情(シンパシー)は、いずれも他者の感情に寄り添う際に現れる反応であるが、意味合いや効果には大きな違いがある。
特に人材開発の観点では、両者を正しく理解し、社員の共感力を育成することが組織の健全なコミュニケーション文化につながる。
共感と同情の定義と実践上の違いから始め、感情認識力が低い場合のリスク、同情を誤って「共感」として使うことの弊害、個人差のある共感力の要因、そして共感力を能力として育成する方法までを紹介。

共感(Empathy・エンパシー)と同情(Sympathy・シンパシー)の定義と違い

共感と同情は一見似ているが、その本質は異なる。

共感とは、他者の立場に自分が置かれたらどう感じるかを想像(意識)し、その感情を自分のことのように理解(感じ、認識)する能力である。
過去の似た経験や相手の感情への深い理解によって、他者の感じていることをまるで自分の感情であるかのように感じ取る。例えば部下が失敗して落ち込んでいるとき、共感的な上司は「自分が同じ状況なら相当つらいはずだ」と感じ、「本当に大変だったね」などと“相手が支えになると感じる言葉や態度”で気持ちに歩み寄る。

一方、同情とは、相手の苦しみや悲しみに対して心配や哀れみの気持ちを持つことである。
他者の感情を自分ごとのように体験はしないものの、客観的な立場から「お気の毒に」「それはつらかったね」など相手を気遣う反応を示す。
同情は相手への思いやりや支援したい気持ちを伴うが、必ずしも相手の感情を共有しているわけではない。例えば同僚がミスで叱責され落ち込んでいる場面で、同情的な人は「それは災難だったね」と慰めるかもしれないが、その内面の苦しさまでは他人事の領域となる。

実践的な違いとして、共感は相手との心理的な距離を縮め、信頼関係を深めるのに対し、同情は一定の距離を保ったまま相手を気遣う傾向がある。
共感ではまさに相手と「共に感じる」ことで強い繋がりが生まれるが、同情では「かわいそうだ」という一歩引いた感覚が残りがちである。そのため共感は支援や対話において相手に安心感を与え、チームの一体感を醸成するが、同情だけでは相手に「上から目線で哀れまれている」という印象を与えることもありえる。
ビジネスの文脈でも、共感力のあるリーダーは部下と苦労や喜びを共有し強力な信頼関係を築くが、同情止まりの対応では表面的な慰めにとどまりがちである。

感情認識能力の不足による共感と同情の混同

人が適切に共感するには、自分自身および他者の感情を正しく認識する力(感情認識能力または感情的自覚)が不可欠である。
ところがこの能力が低いと、共感と同情を取り違えてしまうことがある。そのメカニズムの一つは、自分の感情を理解・表現できない人は他者の感情も汲み取るのが難しく、結果として相手への反応が皮相的なものになりやすいという点である。
例えば本人は「相手に寄り添っているつもり」でも、実際には相手の感情を深く理解できていないために「気の毒だね」といった同情的な言葉しか出ず、真の共感に基づく言動ができない。感情への気づきが乏しいと、「共感しているつもりでただ同情しているだけ」という状態に陥りがちである。

この混同のリスクとしては、相手の本当の気持ちを捉え損ねるためにサポートが的外れになったり、場合によっては相手の感情を軽視してしまったりする点が挙げられる。共感では相手の感情をそのまま認めるが、表面的な同情では「早く元気出して」「自分なら気にしないけどね」といった無神経な反応につながる恐れもある。
感情認識が弱い人は往々にして相手の辛さに寄り添う前に問題解決を急いだり、逆に自分がどう声をかけていいか分からず当たり障りのない慰めで終わらせたりしがちである。その結果、相手は「分かってもらえなかった」「かえって傷ついた」と感じ、人間関係に溝が生まれる可能性がある。
つまり、感情に対する洞察力が不足すると共感のつもりが単なる同情にとどまり、コミュニケーション不全を招くリスクがあるのである。

このような誤解を防ぐには、まず自分自身の感情に気づき言語化する訓練(自己の感情認識)と、相手の表情・声色・言葉からその感情を推察する力(他者の感情認識)を養うことが重要である。
感情認識能力が高まれば、「今この人は何を感じているのだろう?」と考えながら接する習慣が身につき、共感と同情を取り違えることなく適切な対応ができるようになる。

同情を「共感」として誤用することの職場への悪影響

共感ではなく同情しか示せていない状態を「自分は共感できている」と誤解していると、職場の人間関係やチーム運営にさまざまな悪影響が現れる。その典型例や研究知見をいくつか挙げる。

•部下や同僚との信頼関係の阻害
リーダーが部下に対して表面的な同情ばかり示すと、「この上司は本当には分かってくれない」と感じさせてしまう。その結果、部下からの相談や報告が減り、重要な課題が水面下に潜んでしまう恐れがある。共感不足のコミュニケーションが続くと、チーム内でも本音を言いにくい雰囲気が生まれ、コミュニケーションの希薄化につながる。

•心理的安全性の低下
同情止まりの対応では、部下は「こんなことを言っても仕方ない」と感じてしまいがちである。上司に本音や弱みを見せられない環境では心理的安全性が損なわれ、新しいアイデアや率直な意見が出にくくなる。これはイノベーションの阻害や問題の深刻化を招く悪循環である。

•リーダー自身の孤立
共感に欠けるリーダーシップは部下との距離を広げ、最終的にリーダー自身が孤立する結果にもなりかねない。「誰も自分の言うことを本気で聞いてくれない」「自分だけが組織の重荷を背負っている」という状況に陥り、健全な上下関係が崩れてしまう。

•離職(インターンシップ後の離脱者増、内定者辞退)やチーム業績への影響
社員が職場に共感の文化を感じられない場合、エンゲージメント(組織への愛着心)が低下し離職意向が高まることが調査から分かっている。ある調査では、職場が「共感的でない」と感じている社員の45%が「職場が有害(トキシック)だ」と回答し、共感的な職場の社員(14%)より3倍以上も高かったことが報告されている。
同じ調査で、そのような社員の54%が「今後6か月以内に転職を検討している」と答えており、共感欠如が組織の人材流出リスクを高めることが示されている。また、経営層が従業員のメンタルや感情面を軽視すると、欠勤や生産性低下といったコスト増大に直結するとも指摘されている。要するに、同情でお茶を濁すようなコミュニケーションでは社員のモチベーションも上がらず、ひいては業績や職場文化にもマイナスの影響が及ぶのである。

以上のように、「共感したつもりで実は同情しかしていない」状態は、対人関係の溝・組織風土の悪化・生産性の低下など多面的な悪影響をもたらす。人材開発やリーダー育成の場では、単なる同情でなく真の共感を示すスキルを磨くことが不可欠である。

個人によって異なる共感力レベル:測定方法と違いの要因

人によって「人の気持ちを汲み取る力」にはばらつきがある。この共感力の個人差は、性格や育った環境、遺伝的要因など複数の要素に起因する。

まず、科学的な視点からは共感力には遺伝的要因も一部関与することが明らかになっている。ケンブリッジ大学の大規模研究(参加者約46,000人)では、共感力の個人差の約10%は遺伝子によって説明できるとの結果が報告された。ただし残り90%は育った環境や経験によるものであり、共感力は「生まれつき決まる」というより遺伝と環境の両面から形作られる能力である。

また、一般的に女性は男性よりも平均して共感力が高い傾向があることが知られている。この男女差は遺伝子によるものではなく、ホルモンなどの生物学的要因や社会的な役割期待(社会化)の違いによって生じるとされている。
一方で、自閉スペクトラム症(ASD)を持つ人は認知的な共感(相手の考えや気持ちを推察する部分)が苦手なために共感力テストのスコアが平均より低く出ることがある(ただし情緒的な共感能力は保たれている場合もある)。このように神経発達やパーソナリティの特性も共感力に影響を及ぼす。

共感力の測定方法としては、心理学的な質問紙やテストがいくつか存在するが、弊社で提供しているEQ検査で、共感力の活用状況を把握することができる。他者の感情を読み取る力(認知的共感)とその感情に適切に反応する力(情動的共感)の双方を測定する。

共感力の違いを生む要因としてまとめると、
•遺伝的素質:生得的に情緒共感しやすい気質かどうか(ただし影響は一部)
•性別やホルモン:平均すると女性の共感スコアが高い(文化的役割期待も背景にある)
•発達特性:ASD傾向やADHD傾向などによる情緒理解のしやすさの違い
•幼少期の環境:幼児期に共感的な養育を受けたか、感情表現が奨励されたかなど
•経験と学習:人と関わる経験(友人関係、仕事上の対人経験、異文化体験など)が豊富なほど他者理解が深まる場合が多い

つまり、共感力は先天的な要素と後天的な経験の相互作用によって各人各様に発達するものである。この個人差を理解しておくと、「共感力の低い部下への対処」や「組織内の多様な共感スタイルの活用」といった人材マネジメント上の対応策も考えやすくなる。

共感力を高める職場での育成方法

共感力は生得的な気質だけで決まるものではなく、後天的に伸ばせるスキルである。人材開発の現場でも、共感力を「心の知能指数(Emotional Intelligence, EI)の重要な要素の一つ」となり、世界中の職場で計画的な育成が進んでいる。では、具体的に職場で共感力を高めるにはどのような方法があるのだろうか。
可能であれば、共感力には個人差があるため、EQ検査を行い、それぞれのレベルにあったトレーニングをお薦めする。

共感力を高めていく上で重要なポイントは、相手の話の内容から自分自身の過去の同じ、または似たような体験を思い出し、そのときの感情を身体の内側に再現する訓練を行うことである。
「今、相手はこんな気持ちかもしれない」と想像しながら、その感情が適切かどうかを確認・調整していく。嬉しかったとき、悲しかったとき、苦しかったときなど、あらゆる感情の場面を身体感覚として再現できるように訓練を重ねることが求められる。

さらに理解しておくべき重要な点として、共感は自分自身の経験に依存するという事実がある。たとえば、子どもを亡くした経験のない者が、同じ状況にある人へ真の共感を示すことは極めて困難であり、しばしば不可能である。
しかしながら、共に過ごした愛犬を亡くした経験があれば、そのときに生じた深い悲しみの感情を手がかりとして、相手の心情に近づくことは可能である。

相手の今置かれている状況を、自分自身の過去の体験と重ね合わせることで、感情の共鳴が生まれる。以下に挙げるトレーニングすべてにおいて、この「感情再現」の視点は不可欠であり、トレーニングのプロセスに組み込んだうえで実施する必要がある。

感情再現トレーニング

共感力を高める基礎的なトレーニングとして、有効なのが自身の過去の感情を身体感覚として再現する練習である。特に「苦しかったとき」「悲しかったとき」などの強い感情体験は、記憶に深く刻まれているため再現が比較的容易である。

<トレーニングの手順>
1.感情体験の想起
過去の「苦しかったとき」「悲しかったとき」「怒りを感じたとき」など、特定の感情が強く表れた出来事をひとつ選び、そのときの状況や相手の言動、場所の雰囲気などを詳細に思い出す。
2.身体感覚の再現
当時の感情を、胸の締めつけ、涙、呼吸の変化、筋肉の緊張など、身体の中に再現する。もし悲しみの感情を思い出して実際に涙が出てきた場合は、その時点でいったん練習を終了する。
3.楽しい感情への切り替え
次に「楽しかったとき」「嬉しかったとき」の体験を思い出し、笑顔や笑い声が自然と出てくるかを確認する。感情が身体表現として現れた段階で、このセッションを終了する。
4.繰り返しによる切り替え練習
短時間で複数の感情(悲しみ → 喜び → 怒り など)を切り替えて再現できるようになるまで、繰り返し訓練を行う。最終的には、状況に応じて必要な感情を意識的に思い起こし、その感情で他者の立場に寄り添えることを目指す。

このトレーニングが身につけば、相手の状況が理解できた際、その状況に近いものを呼び起こし、相手の気持ちに近づけることが可能になってくる。

※数多くの書籍やウェブサイト、最近多用されるAIの回答においても、「共感力を高める方法」と題しながら、実際には同情(シンパシー)を強化する傾聴的トレーニングに終始している例が多く見受けられる。そのため、内容を見極める際には注意が必要である。

研修プログラムと計測による強化

近年では、共感力を体系的に高める研修プログラムも登場している。
例として、医療・介護分野では患者への共感力向上研修、接客業では顧客の感情に寄り添うCS向上研修など、業務に合わせた共感トレーニングが行われている。メタ分析によれば、医療系学生への共感トレーニングは対照群と比べ有意に共感スコアを向上させたとの報告もある。
研修ではビデオ教材やグループ討議、ロールモデルの紹介など様々な手法が組み合わされ、受講者の共感度合いが事前事後のテストで測定される。

人材開発担当者は、こうしたプログラム導入と並行して共感力の評価指標を設けることも重要である。
例えば従業員向けのエンゲージメント調査や360度評価の中に「上司は部下の気持ちを理解しようとしているか」「同僚は困っている人に親身に対応しているか」といった質問項目を含めることで、組織全体の共感度を定期的にチェックできる。
評価結果をフィードバックし、改善が必要な部署には追加研修を行う、といったPDCAサイクルを回せば共感力は着実に底上げされていくであろう。

共感力は「生まれ持ったセンス」に留まらず、伸ばすことのできる能力である。そしてその能力は、単に人間関係が良くなるだけでなく組織の業績や社員の幸福度にも直結する戦略的な資質だとグローバルで認識され始めている。

個人的な感想ではあるが、吹き替えされていない海外の映画やドラマを見ていると、上司や周囲の人物に対する問題提起として「エンパシーに課題がある」というセリフが登場する場面が、近年かなり増えてきた印象を受ける。

人材開発のプロとしては、共感と同情の違いを正しく押さえたうえで、社員一人ひとりの共感力を育む施策に積極的に取り組むことが重要である。それがひいては、心理的安全性と信頼に支えられた強固なチームの構築と、変化に柔軟に対応できる強い組織づくりへとつながっていく。

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