勝利を手にするのは、技術だけに頼らないチーム

とある少年野球チームのお話です。

地区の優勝を決める一戦、選手層や個々の能力では引けを取らない対戦カードでした。

どちらが勝ってもおかしくない、絶対に負ける訳にいかない試合で、強烈なプレッシャーのかかる試合で勝利を掴んだのは、野球の技術的なレベルは低いけれど、別の部分で優れていたチームでした。

では、この2チームには、どのような違いがあったのでしょうか。

惜しくも優勝を逃したBチーム

平日は日が暮れるまで、土日もみっちり練習を行い、練習量ではどのチームよりも圧倒しており、基礎も体力も申し分なかったのですが、試合になると練習してきたプレーができず、日々の努力がなかなか結果に結びつきません。

試合中に思うようなプレーができないと監督は強い口調で、子どもたちにこう言います。

『なんで!?、あの時あんなところへボールを投げたんだ!!!』
『なぜ、あそこでバットを振った!?はぁ??』
『なんで!?練習でやったことができないんだ!?』

強い口調でのこの言葉に、子どもたちはどう反応するでしょう。

全身の筋肉は柔軟性と俊敏性を失い、体の動作は悪くなります。『やってはいけないことをしてしまった』と思うでしょう。そう脳裏に刷り込まれたプレーヤーは、次に同じような場面が起きた時、さっき投げたところへはボールを投げなくなりますし、同じ場面ではバットを振らなくなります。誰でも怒られたくないからです。

試合終了まで怒られて、負のスパイラルがはじまります。

プレーは、結果として良い結果に結び付かなかったうえ、チャレンジしたことへの評価もありませんでした。試合終了後も不満を子どもたちへぶつけます。そのプレーが本当にいけないものだったのか、やってみたことは良くなかったのか、やらない方がよかったのか、分からないまま怒られたくない子どもたちは、次第に怒られないように『やらない』選択をして、自分たちが考えるやりたい野球ができなくなっていきました。

さらにこのチームの課題は、応援でその場に居合わせていた保護者がチームの弱点である子どもたちの萎縮を監督に伝えることができないことです。
物言えない雰囲気は監督の責任ですが、意見を上手に伝えるコミュニケーション能力を持った保護者がいないため、子どもたちは大人のEQの低さによって犠牲になるパターンのひとつです。

優勝を手にしたAチーム

練習は平日週2日程度、土日はどちらか1日のみで、1日はオフでした。練習量はあまり多くはありませんが、短時間で集中して練習を行うのびのびとしたチームでした。練習量ではBチームに到底及びませんが、子どもたちは試合で、次々と好プレーを見せてくれます。監督はBチームの監督同様に厳しい口調の時もありますが、内容がことなるのです。子どもをよく見て伸ばそうをしてくれる、子どもたちの「気持ち」に寄り添った「ポジティブな」監督でした。

『なんで!?あの時走らなかった、オレのことは気にするな!失敗を恐れるな!』
『失敗してしまったけど、ダメ元でもチャレンジしてみたことが良かった!次はきっとうまくいく!』
『いいぞいいぞ、もっとやろう!』
『自分たちで考えてみよう!』

目の前のリスクを先行して考えてしまうと、思考の範囲は狭まり、行動が鈍ります。こういった悲観的な行動は、意識的に選択しているわけではなく、無意識で狭まった思考となり、鈍く、控えめな行動になります。

第三者からの発言に耳を傾けすぎたりするのではなく、自分の感情としっかり向き合ったうえでの意思決定であれば、仮に理想的な結論が得られなくても、受け止めることができ、そこから学ぶことができます。

ただ単に「きっとうまく行く」と言葉として口に出しても、それは単なる願望に過ぎません。

逆に「起きてほしくないこと」を想定し、不測の事態を避ける準備をして行動を起こす。自分が進む道に悩んだ時は感情と向き合いながら前進する、そういう行動に移せた時、自信に溢れ、自然と湧き出てくる「きっとうまく行く!」と楽観的に思えるのです。

前向きな思考による行動で打開策が見出され、より道は開かれチャンスを掴みやすくなります。楽観的な人ほど行動に移しやすく「やってみよう」とします。悲観的な人は行動を控えてしまう傾向があり「やめておこう」と前に進むことをやめてしまいます。

今回例として挙げた二つのチーム、勝敗を分けたのは楽観性を持った子供達が多かったピンチを打破できるチームでした。
その楽観性を発揮させる手助けをしたのは、監督の言葉がけだったでしょう。

そして、Bチームが負のスパイラルにはまり込んでいく時、Aチームの監督は「勝てる」と踏んでいたかもしれません。

・Pixabayによる写真: https://www.pexels.com/ja-jp/photo/264337/
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